山口眞司の舞台

山口眞司 過去の舞台  

過去の舞台・ 2019年 

ダウト    リーフレット   2019.10.29

劇場・料金

下北沢 小劇場B1  

作・演出

原作:ジョン・ハトリック・シャンリィ  演出:大間知靖子

主な出演者

眞野あずさ 山口眞司 伊藤安那 村中玲子

その他

2008年に映画化
出演:メリル・ストリープ、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、ヴィオラ・デイヴィス


■仮説3:フリン司祭はなぜ昇進したのか(フリン司祭とは何者か)  (続き)

【次のようなドラマを見た記憶があります】

(4)セント・ニコラスへ

 1年前の1963年の夏に、今回の舞台であるセント・ニコラス教会・学校にフリン司祭は赴任してきました。9月から新学年が始まり、クリスマスのイベントを親しみやすいものにしよいうと提案したのですが、堅物の校長にことごとく反対されて思案中のところで、11月にケネディ暗殺事件が起こってそれどことではなくなり、結局落ち着かないまま1年が過ぎました。

 1964年の夏になり、フリン司祭は怪しい修道女も見つからないまま、また次の教区に転任するものとと思っていたところ、司教から思いがけなくもう1年いるようにと命じられます。始めてアフリカ系アメリカ人の少年ドナルドが転入してくるので、卒業までの6月まで彼の面倒を見てほしいというのです。
 高校に進学できれば学校としても実績になって白人以外の人種の人たちにもアピールできるのですが、反対に学校内でいじめなどの問題が起きれば、過激化しているアフリカ系アメリカ人の活動家を刺激してしまいます。そういわれると重要な仕事で、フリン司祭は引き受けることになります。

 新学期が始まる前に、ドナルドの父母とも何回か会って話をしました。またクラス担任も主任司祭と話し合って、高齢の修道女ではなく、まだ2年目ですが優秀な女性教師を抜擢することにしました。
 これらのことは校長には全く相談せずに決めてしまいました。そのことが「陰でこそこそ色んなことを決めている」という校長の不満や疑い(doubt)を招く一因となったのです。(注9)

 11月に入って主任司祭から昇進の話があるとフリン司祭は告げられました。(注10)
ドナルドを問題なく6月に卒業させ高校に進学させることが条件ですが、それさえクリアすればどこかの学校の校長にするということです。これまでの教育活動が評価されたのです。

 ところが、校長はフリン司祭の行動を疑い(doubt)はじめます。
 校長はクリスマスのイベント内容を話し合うという口実を使って、フリン司祭を校長室に呼び出します。
 すると、ついフリン司祭は校長室に入るとすぐに校長のデスクの椅子に座ってしまいました。
「6月までの辛抱だ、それが終わればこの椅子に座れるのだ。」
 この行為がさらに校長の疑い(doubt)を招くのです。


(5)フリン司祭の説教

 その翌朝、フリン司祭が説教をしました。その内容は、ある女がある男について根拠のない噂をしたところ、その夜に「神のものと思われる大きな手が自分を指さした」という夢を見た。次の朝、女は年老いた司祭のところに行き、懺悔をして「噂をするのは罪でしょうか?」と尋ねます。すると司祭は・・・(以下略)、というものです

 女性教師は前日のことがあったので、「ある女」とは校長のことを暗に指しているのだと思いました。
 フリン司祭は、校長のこともありましたが、主にセント・ボニフェス事件の修道女に対して、嘘をついたのだから懺悔するように促したつもりでした。
 校長は、前日の自分のことを言っていると思って腹立たしく思うとともに、かつてあった出来事を思い出します。


(5)対決(フリン司祭バージョン)

 校長が少年の母親を学校に呼び出したのを知って、フリン司祭は慌てて校長に抗議します。
 この時期は、アフリカ系アメリカ人の活動については、穏健派のキング牧師の勢力が低下し、イスラム教系の団体の過激な活動が活発化していました。翌年の2月にはイスラム教系の団体と距離を置こうとしたマルコムXが暗殺されています。
 フリン司祭は「校長の世間知らずも困ったものだ」と思いますが、少年の母親が冷静だったようなので、胸を撫で下ろします。(注11)

 校長の話を聞くと、証拠といえるものが全くないものでした。
 そして校長が「ウィリアム・ロンドンの腕をつかむのをみた」というのには、全く飽きれてしまいました。もともと校長としての適性について疑問をもっていたからです。

 フリン司祭が校長の机でメモ帳に校長が不適任である理由をボールペンで書き出します。
  ・生徒数の増加に対して、クラスの増加、教室の確保などの対策がない
  ・生徒数の増加に対して、教師が過重労働になっており、その対策がない
  ・高齢で病気の教師にも必要な療養を与えていない(目が悪くなった修道女)
  ・教師に対して自身の考えを押し付けるパワハラ的な態度をとっている。
  ・規則遵守を厳しく罰が重いので、生徒が委縮している。
 など、校長を不適任とする理由なら、いくらでもあったのです。

 すると校長の様子が変わり「今朝フリン司祭が以前いた教区の修道女に電話した」といいだします。
 フリン司祭が少し動揺して「私の過去を詮索するな」と言いました。いろいろと自分の過去を調べられると、秘密の任務がばれてしまうからです。そうなればせっかくの昇進もなくなってしまいます。

 さらに校長は「あなたは、この5年間で3回転勤をしてますね。なぜですか?」と追及してきます。
 フリン司祭は校長のしつこさにあきれて「校長はいくら説明しても、どうせわたしのいうことには聞く耳をもたないのだ」と観念します。
 自分から秘密を明かしてはならないと言われているので、しかたなく「主任司祭に電話して聞け」と電話機をたたきつけました。主任司祭に自分の任務などを説明してもらって校長に納得してもらうしか手段がないと考えたのです。

 ところが、校長は「わたしは電話しない」と返します。主任司祭とフリン司祭が結託しているからだといいます。

 どの修道女も自分のことを悪く言うはずがないので、フリン司祭が「どの修道女と話をした?」と聞いたところ、校長は「いうつもりはない」と返します。

 ふとフリン司祭は「あの事件に似ている」と思ったのです。
 「この人なのか? いや、別の可能性もある」など、あれこれ考えを巡らします。

 すると、校長は勢いを強めてこういいます。
「わたしには確信があります。あなたが以前いた教区を調べ、その前の教区も調べます。必要なら証言する保護者を見つけます。わたしは必ずやりとげます。」

 フリン司祭は「修道女に教会の外にでる権利はない」と怒ります。せっかく見つけた容疑者を逃がしてはなりません。

 すると校長は、さらに気持ちを高ぶらせて、どなります。
「必要なら教会の外にも行きます。たとえ教会から追放されようとも。
 やるべきことをします。たとえ地獄に落ちようとも。」

 フリン司祭は思いました。
「この人に違いない。・・・だが、この人は他の人を陥れようとしたのではない。思い込みが激しいだけなのだ。一時の思い込みのために罪を犯してしまう人なのだ。 ・・・せめて今回だけでも助ける手立てはないのだろうか。」

 フリン司祭はまず心を落ち着かせて、そして校長に懺悔を促しました。

 フリン司祭:「あなたは、過ちをしたことがありますか?」
 校 長  :「あります。」
 フリン司祭:「大罪ですか?」
 校 長  :「そうです。」
 フリン司祭:「それで?」
 校 長  :「わたしは司祭に告白しました。」

 フリン司祭は「やはりそうだった。この人はスカリー司祭に懺悔したのだ。」と思いました。
 続けて今回の件も校長が懺悔するよう誘導しようとします。それしか罪を軽くする手立てが思い浮かばないのでした。

 しかし校長は思い留まりました。あやうくフリン司祭に懺悔するところだった、罠にはまるところだったと思い、懺悔を拒否します。
 「やはりだめだったか。」フリン司祭は気落しました。

 校長は「転任依頼をを提出し、許可されるまで休暇をとりなさい。・・・(中略)
よければ電話を使いなさい。」と言って部屋をでていきます。
 「爪をきりなさい」という捨て台詞を残して。


 フリン司祭はしばらく呆然と考え込んだ後に決意して、主任司祭に電話をします。

「セント・ボニフェス事件の件ですが、容疑者が見つかりました。
 正確にいうと容疑者は2人で、そのうちのどちらか1人が虚偽の告発者です。」


 「仮説4:校長が泣き崩れる理由  − I have douts. I have such doubts.」 はここをクリック



(注9)
 ここまで「シスター・アロイシス」では長いので「校長」と書いてきたのですが、彼女が「校長」だという根拠はないことに気づきました。
 "school master"とか"pastor of School"とは、映画では全く呼ばれておらず、常に「シスター・アロイシス」と呼ばれています。「校長」だと思い込んだのは、パンフレットの裏の説明に書いてあったからです。
 すると修道女のトップのであるシスター・アロイシスが、人手不足などで校長が不在の校長室を使っているという設定も可能です。校長室から出ていきたくないばかりに、次期校長の可能性があるフリン司祭を追い落とそうとしたという仮説も成り立ちそうです。

(注10)
 フリン司祭の昇進があらかじめ決まっていたと仮定する根拠は2つあります。
 1つ目は、カラスが鳴いているシーンで、フリン司祭が「あれは、"starling" (ムクドリ)かな "grackle"(ムクドリ類の鳥)かな?」と女性教師に問いかける台詞です。
 一種の連想ゲームです。同じムクドリ類の鳥を表す言葉に"pastor"があります。

  ムクドリ
  "starling" 、"grackle" => "pastor" => 主任司祭、校長

 フリン司祭は、2か月後には主任司祭で校長 "pastor of Church and School" になるのですから、すでに昇進はある程度は決まっていたと考えるべきでしょう。

 2つ目は映画だけの豪華な食事のシーンです。主任司祭とフリン司祭と、その上座に座っているのはおそらく司教で、太っている母親のことを話題に笑いながら談笑しています。
(「仮説2:校長がいだいた疑い(複数) − I have douts.」の注4参照)
 わざわざ司教が訪問してきたこと、フリン司教の昇進を祝うことで豪華な食事になったのでしょう。フリン司教もいつになく上機嫌であることも、昇進が決まったことを暗示しているという仮説です。

 この時点では校長"pastor of School"だけ決まっていたと設定しました。別の手柄を立てて、主任司祭"pastor of Church"になるという仮説です。

(注11)
  前述の「仮説2:校長がいだいた疑い(複数) − I have douts.」の(注4)参照

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